近親相姦
 親子や兄弟で性交渉をもつことを近親相姦といい、これをタブー視する習慣をインセスト・タブーといいます。ギリシア悲劇のひとつ『オイディプス王』では、オイディプス王は父と知らずに父を殺し、母と知らずに母を犯した末、真実を知ったのちに両目をえぐってしまいました。これはインセストに対するアンチテーゼであったことは間違いのないところでしょう。
 古代エジプトでは王家の権力と財産が分散しないよう、近親婚が繰り返されていました。有名なクレオパトラ7世はローマのユリウス・カエサルと一緒になる前は弟のプトレマイオス13世と結婚しています。このようなエジプト王家にあっても、母子の婚姻は認められていなかったいいますが、これは人間に最も近いボノボ(チンパンジーの1種)が乱交をしても母子との交尾だけは本能的に避けることと同じと言えるかもしれません。古代には、母子相姦以外の近親相姦は認められていたわけです。
 ではなぜ、母子間に限らない父子間や兄弟姉妹間のインセストが時代を下るにしたがってタブー視されるようになってきたのでしょうか。人類学者レヴィ・ストロースは、財産を移動させるためあえて外部の集団と婚姻を結ぶようになったのではないかとしています。実際、いとこ同士の結婚が認められる社会であっても、平行いとこ(父の兄弟および母の姉妹の子ども)同士の婚姻が厳禁されている場合は多く、これは結婚すると同じ家系に属することになってしまうからだといわれています。
 かつてインセストタブーの理由は、遺伝病を防ぐためと説明されてきました。確かに、血縁が遠ければ優性遺伝子によって押さえ込まれまれる遺伝病も、近親者同士の結婚になると男女ともに劣性遺伝子を持っている確率が高いために発病する可能性はあります。でも、遺伝の法則を知らない時代に、遺伝病がインセストによるものと理解されていたとも思えません。これはあまりに近代的な解釈ではないでしょうか。
 ちなみに現代日本では、親子、兄弟姉妹などの婚姻は認められていなくても、いとこ同士の婚姻は禁止されてはいません。

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