エロス
 エロスというのは、今では官能的な意味で使われていることが多いと思いますが、本来はギリシア神話における愛の神のことです。ローマでは、弓と矢によって人々に恋の苦しみをもたらすキューピッドとされました。
 エロスの本質は、恋人への性的な愛です。古代ギリシアの哲学者プラトンの『饗宴』にはこんな逸話がでています。かつて、この世には男、女、男女(おとこおんな)という3種類の人間がいました。そしてそれぞれの人間には、4本の手と4本の足があったといいます。あるとき、傲慢な人間の行いが神ゼウスの逆鱗にふれて、それぞれは真っ二つに切り裂かれてしまいました。こうして2本の手と2本の足をもつ人間がはじめて誕生したのです。かつての男や女は、互いに生き別れた同性を求めるホモセクシャルとなり、かつての男女(おとこおんな)は、互いに生き別れた異性を求めるヘテロセクシャルになりました。
 こうして、現在に生きる人間がかつての半身、つまりベターハーフを探そうとすることをエロスと呼ぶようになりました。プラトンによれば、エロスこそがイデア(絶対的な真理)に到達するために自己を高めていくエネルギーだというのです。そのためには、ただ男女が肉体的に愛しあえばよいというものではなく、精神的にも高めあっていかなくてはなりません。そこでプラトンは、「精神より肉体を愛するのは本当の愛ではない」と喝破しました。これがいわゆるプラトニック・ラブです。
 「性は生なり」という言葉があるように、たしかにエロスは生きていくエネルギーの源泉でもあります。のちにオーストリアの精神科医フロイトは、エロス(生の衝動)をタナトス(死の衝動)とともに、人間が本能的にもっているリビドー(衝動)であるとしました。エロスがあるからこそ、人は人生に希望を感じ、タナトスを意識することはありません。しかし、エロスの衝動が強すぎると、生きて一緒になれないくらいなら死んで一緒になりたいと、タナトスの衝動が強くなってしまいます。


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